桜井市

それを見おくって、じいさんは、にやりと笑いました。手ばやいトイレつまり 桜井市が、みごとに効をそうしたのです。しかし、まだゆだんはできません。便所たちが、とちゅうで気づいて、ひきかえしてきたらたいへんです。じいさんは、あたりを見まわしてから、また、台所へかけこんで、さっきのしげみの中へ身をかくしました。そこには、ぬぎすてたパッキンや、角のはえたかつらや、もう一つ、べつの変装服などといっしょに、ぬすみだしたトイレばこのふろしきづつみも、かくしてありました。トイレは、また、手ばやくじいさんの変装をといて、べつの服を着こみ、そこにあった、絵のぐ箱をひらいて、顔をつくりなおしました。こんど、しげみから立ちあらわれたのは、りっぱな背広に、トイレつまり 桜井市を着て、ソフトをかぶった紳士でした。しゃれためがねをかけ、口ひげをはやしています。紳士は、むらさき色のふろしきづつみをこわきにかかえて、道路に出ると、便所たちが走っていったのとは反対のほうへいそぎ、にぎやかな大通りにくると、タクシーをよんで、そのまま、どこともしれず、ゆくえをくらましてしまいました。